概 要
ショットピーニングは材料の表面に小さな粒子を発射し表面のみが塑性加工により改質する機械加工表面処理である。 この変形により圧縮応力が導入され、処理された材料の強度と疲労性能が向上する。表層近傍は大きく塑性変形しているため結晶粒が非常に微細となっており、EBSD測定の際はパターンの不鮮明化や重複により、従来のHough変換を用いた指数付け法では指数付けが困難になる。Spherical Indexは実験的な EBSD パターンとシミュレートされた EBSD パターンの画像を比較して方位・相を決定する、EBSD パターンの新しい指数付け手法である。 このアプリケーションノートでは、ショットピーニングされたチタン合金から得られたEBSDパターンを従来のHough変換を用いた指数付けとSpherical Indexの両方を使用して指数付けを行った。Spherical Index法では、表面近傍の大きく塑性変形した領域にて指数付け可能な領域が大きく向上した。
本文
今回はショットピーニングを施した二相チタン合金を試料に用いた。本試料はNSTDA Characterization and Testing Service Centerの Prathompoom Newyawond 氏のご厚意により提供されたものである。ショットピーニング処理後に断面のEBSD観察を行った。100 nm のステップ サイズで 34 x 84 µm、30 nm のステップ サイズで 4.6 x 14 µm の二種類の倍率でClarity™ 直接検出型EBSD検出器を用いてEBSD測定を行った。

図 1. Hough変換によるバンド検出から指数付けしたEBSDマップa)低い倍率のIQマップ b) ショットピーニングの加工面方向のIPFマップc)αTiを赤、βTiを青で示す相マップ
図 1は低倍率スキャンのEBSD測定結果を示している。ショットピーニングされた表面は、分析領域の右側に位置している。 図 1a はIQマップを示している。IQ値はHough変換により検出されるバンドの明るさから算出される値であり、鮮明なパターンが得られた測定点は明るく、弱くてぼやけたパターンが得られた測定点は暗くなる。 ショットピーニングされた表面では、大きな塑性変形により、IQ値の大幅な低下がみられる。
図 1b は、Hough変換を用いた指数付けに基づいて作成されたIPFマップを示している。 このマップではCI値が低い測定点は黒く表示されている。 ショットピーニング方向の配向性を示すためにIPFを用いた。図 1c は、Hough変換の場合の相マップを示している。母相のαTi粒子間にβTi相が存在しているが、ショットピーニングされた表面に近づくほど解析不良点となってしまっている。

図 2. 図1と同一視野のSpherical IndexによるEBSDマップa) ショットピーニング加工方向からのIPFマップ. b) αTiを赤、βTiを青で示す相マップ
図 2a は、図1と同一領域をSpherical Indexによる指数付けを行ったEBSDマップを示す。Spherical Indexは測定時にすべてのEBSDパターンの画像を保存し、OIM Analysis™ 9 内の OIM Matrix™ モジュールを使用して再指数付けされる。今回はNPAR™ による積算とSpherical Indexを組み合わせて、EBSD パターンの鮮明度向上処理後、パターンマッチングを行った。 図 1b のHough変換による指数付けと比較すると、ショットピーニング加工の表面近傍の微細化した組織まで指数付け可能であった。図 2c は、相マップを示している。 β相は、分全体にわたってアルファ粒子間に存在している。EBSDパターンを両方の相のマスター パターンと比較し、相の判定が行われている。

図 3.図1と同一視野のEBSDマップ a) 下部PRIASマップ. b)下部PRIASとHough指数付けのIPFとの合成マップ. c)下部PRIASとSpherical IndexのIPFとの合成マップ
図 3a は、下部位置のROIの輝度を用いて反射電子像を作成する下部 PRIASマップである。このマップでは凹凸が強調される。Figure 3b と 3c では、HoughとSpherical Indexの指数付けによるIPF マップを PRIAS 画像に重ねて表示している。 IPFマップ上での解析不良点は透明に設定しているため、PRIAS 信号のみが表示されている。 図 3b と 3c を比較すると、ショットピーニング加工面近傍およびβTi相の細かい組織まで指数付けできていることが分かる。

図4. 図1と同一視野のEBSDマップ a) Hough指数付けによるKAMマップ. b)Spherical IndexによるKAMマップ
KAM マップによりショット ピーニングにて生じた塑性変形の度合いを方位差として評価することができる。HoughとSpherical Indexの両方の KAM マップをそれぞれ図 4a と図 4b に示す。Spherical Indexでは方位計算の角度分解能が優れるため部のKAM値が下がり、ショットピーニングにより増加した方位差を明瞭に評価できていることが分かる。Hough指数付けでは転位密度増加によるEBSDパターンの不鮮明化によりバンド検出の精度が低下し、KAM値が増加してしまっている。

図 5. 高倍率のEBSDマップa) IQマップ b) Hough指数付けのIPFマップ c) Spherical IndexによるIPFマップ
図 5a は、ショットピーニングされた加工面近傍の IQ マップを示す。 表面近傍は大きな塑性加工により微細化し、EBSDパターンが不鮮明となっていることが分かる。 図 5b と 5c は、HoughとSpherical Indexにより指数付けした IPF マップを示しており、解析不良点が黒く表示されている。 この大きく塑性変形した領域ではSpherical Indexで指数付け可能な領域が大きく増加しており、ショットピーニング中に発達した細かい組織の様子が明らかとなった。大きく塑性加工された組織の指数付けにSpherical Indexが有効であることが明らかとなった。

図 6. a) Spherical Indexから作成した結晶粒マップ. b) 結晶粒径のマップ色はFigure 6cのハイライト色を使用. c) 結晶粒径分布
図 6a はSpherical Indexから結晶粒の認識を行い、個々の結晶粒を異なる色を設定した結晶粒 マップを示す。 結晶粒認識の方位差には5°を使用し、隣の結晶粒と異なる色となるように配色されている。 ショットピーニング加工表面近傍では結晶粒が微細化されていることが分かる。 図 6b は結晶粒径マップであり、図 6c の結晶粒径分布のハイライトカラーを用いている。
まとめ
今回ショットピーニングにより大きく加工された表面近傍のEBSD観察を行った。従来のHough指数付けでは、大きく変形した領域の指数付けは難しかったが、OIM Analysis 9 に実装されたSpherical Indexを用いることで指数付け可能な領域が大きく向上し、ショットピーニングにより導入された微細組織の評価をEBSDにて行うことが可能となった。