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EDSの限界を打ち破る:シリコンウェハーの汚染物質検出にWDSを使用する研究

はじめに

エネルギー分散型X線分光法(EDS)は、高速かつ詳細な元素分析が可能なため、シリコン(Si)半導体ウェハー検査において、表面欠陥や汚染物質の同定に広く使用されている。汚染粒子から検出される一般的な元素には、高誘電率絶縁体由来のストロンチウム(Sr)やイットリウム(Y)、金属プラグや配線由来のタングステン(W)やタンタル(Ta)などがある。バルク試料では、最新のEDS検出器は通常、Si K信号からこれらの元素からの信号を分離(またはデコンボリューション)することができる。しかし、ウェハー検査で使用される一般的な分析条件では、電子ビームが汚染物質を透過するため、目的の汚染物質からは弱い信号しか得られず、ウェハー自体からははるかに強いSi K (1.740 keV)信号が発生する。

EDAX Octane Elite Super EDS検出器(125 eV分解能)を用いて5kVの加速電圧で測定した場合、Si Kピークの半値幅(FWHM)は80 eVであるが、Si Kßを考慮すると、1/10幅(FWTM)は200 eVの実験値に近づく(図1aアウトラインスペクトル)。FWTMの広いSiピークは、SrとYのL線、WとTaのM線(それぞれ1.806、1.922、1.774、1.709 keV)を含む一般的なコンタミピークを不明瞭にし、ピーク対バックグラウンド比を著しく低下させ、ウェハー検査中にこれらの元素を検出することを極めて困難にする。一方、波長分散型X線分光法(WDS)では、エネルギー分解能に優れ、ピーク対バックグラウンド比が改善されるため、EDSでは検出できなかったSi Kαと(弱い)W Mαのピークを、シリコン上の汚染試料から分離することができる(図1a塗りつぶしスペクトル)。本研究では、WDSを用いてシリコンウェハー表面の汚染物質を同定するためのベストプラクティスを探る。

a) 加速電圧5 kVにて収集したシリコンウェハー上に形成されたW薄膜のEDS (赤アウトライン) とWDS (シアン塗りつぶし)スペクトル重ね合わせ b) ドウェルタイム1秒の制限スキャンで収集したW MαのWDSスペクトル (バックグラウンドを赤線で示す)
図 1. a) 加速電圧5 kVにて収集したシリコンウェハー上に形成されたW薄膜のEDS (赤アウトライン) とWDS (シアン塗りつぶし)スペクトル重ね合わせ b) ドウェルタイム1秒の制限スキャンで収集したW MαのWDSスペクトル (バックグラウンドを赤線で示す)

試料と測定方法

シリコン上の汚染物質をシミュレートするため、 Gatan PECS™ II システム を用いてSiウェハー上に厚さ3.0 nmのW膜を堆積させた。電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)で、EDAX Octane Elite Super EDS検出器とEDAX Lambda Plus WDS検出器を使用して、EDSとWDSポイント分析を同時に行った。加速電圧は3.0、5.0、10.0、15.0 kVの範囲でテストし、最適な電圧を決定した。ビーム電流はすべての電圧で5 nAに統一し、EDSによるウェハー検査で一般的に使用されるビーム電流の範囲と一致させた。ウェハー検査では、汚染物質の迅速な同定が重要であるため、WDSの制限スキャンは、スキャン時間を最小化するために、6つのバックグラウンドチャンネルと9つのシグナルチャンネルを使用して、W Mαを中心に設定された。2つのバックグラウンド位置からリニアなバックグラウンドが計算され、ネット強度が決定された(図1b)。このテスト試料について、0.5、1、5秒/チャンネルのドウェルタイムと1eV/チャンネルのステップサイズで分析を行い、WDSによって統計的に確実にWが検出されるために必要な最小時間を決定した。

加速電圧3.0、5.0、10.0、15.0 kVにおける電子ビームとSiウェハー上の3 nm W膜の相互作用のモンテカルロシミュレーション(左から右):上)電子軌道、縦スケールはすべて2.5 µm、下)エネルギー堆積、縦スケールは各グラフに記されている [1]
図 2. 加速電圧3.0、5.0、10.0、15.0 kVにおける電子ビームとSiウェハー上の3 nm W膜の相互作用のモンテカルロシミュレーション(左から右):上)電子軌道、縦スケールはすべて2.5 µm、下)エネルギー堆積、縦スケールは各グラフに記されている [1]

結果と考察

CASINO[1]を用いた電子ビーム-試料相互作用のシミュレーションによると、加速電圧が3.0 kVから15.0 kVに上昇するにつれて、Siウェハーへの電子の侵入深さは約150 nmから2 μmに増加し、厚さ3 nmのW膜からX線を励起する電子の数は著しく減少した(図2)。実験の結果、W Mαのピーク対バックグラウンド比は、すべてのドウェルタイムにおいて、加速電圧が上昇するにつれて減少することが確認された(図3)。さらに、加速電圧が高くなりカウント数が増えるとドウェルタイムの違いによるピーク対バックグラウンド比の差は減少した。W Mαピークの統計的有意性は、3.0、5.0、10.0 kVのすべてのドウェルタイムで確認された。最も高いピーク対バックグラウンド比は、3.0 kV、ドウェルタイム1秒で達成された3.0であった。0.5 秒のドウェルタイムでは、スキャン時間が約 15 秒から 7.5 秒に短縮されたにも関わらず、ピーク対バックグラウンド比は依然として 2.7 を維持した。15.0 kV では、W フィルムとの電子相互作用が限られており、その結果 WのX 線生成が低いため、W Mα ピークは統計的に有意ではなかった。

加速電圧の関数としてのW Mαピーク対バックグラウンド比、色は異なるドウェルタイムを表す
図 3. 加速電圧の関数としてのW Mαピーク対バックグラウンド比、色は異なるドウェルタイムを表す

結論

本研究では、EDS単独では検出できないウェハー検査アプリケーションにおいて、WDSが汚染物質の特定に有効な手法であることを実証した。WDSの優れたエネルギー分解能は、強いSi Kピークのブロードテールから生じるピークの重なりにより、EDSでは分離が困難な10 nm以下の汚染物質の同定に使用できる。我々は、Siウェハー検査で一般的に使用されるEDSデータ収集条件と同様に、ビーム電流5 nA・加速電圧3.0~10.0 kVにおいてWを約7.5秒で統計的に有意な検出ができることを示した。このように、WDSはEDSと組み合わせることで、困難な条件下でのSiウェハーの汚染物質検出に優れたソリューションを提供することができる。

参考文献

1. Page officielle de I’application Casino: Monte Carlo Simulation of Electron Trajectory in Solids, https://casino.espaceweb.usherbrooke.ca/ (accessed March 3rd, 2025)