はじめに
歴史的に、エネルギー分散型X線分光法(EDS)を用いた軽元素の検出は、低エネルギーX線を減衰させるウィンドウによって制限されてきました 。過去数十年にわたるウィンドウ材の改良によって、ベリリウムからポリマー、そして最終的には薄膜のシリコンナイトライドウィンドウへと移行し、EDS技術の信頼性の高い検出能力がアルミニウムL線(73 eV)まで拡張されました。しかし、このような進歩にもかかわらず、最新のウィンドウ材においても依然として低エネルギーX線の大幅な減衰に悩まされており、例えば窒素の強度は50%、ホウ素の強度は90%減衰します。しかし、新開発のEDAX® Octane Elite Ultraウィンドウレス検出器はさらに大きな進歩を遂げ、ウィンドウによる減衰を排除し、大幅に向上した信号対雑音比で低エネルギーX線の検出を可能にしました

図 1. Octane Elite Super(左上)とOctane Elite Ultra(右)を日立SU7000に装着し、同時に収集を行いました。SEMにはCipher®システムも搭載されており、試料中のリチウム含有量を明らかにすることができます。
試料と実験方法
ウィンドウレスOctane Elite Ultra検出器の性能は、図1に示すように、Octane Elite Super(70 mm2 、シリコンナイトライドウィンドウ)とOctane Elite Ultra(160 mm2 、ウィンドウレス)の2つのEDS検出器を搭載した日立ハイテク社製SU7000走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて評価されました。2つの検出器を同時に動作させ、測定条件の変化による変動を排除することで、並列比較を行いました。ホウ化物介在物を含むハイエントロピー合金試料は、その複雑な組成とホウ素の検出が困難であることから、分析対象として選択されました。

図 2. 20 kV、 256 x 200 ピクセルにて3 分 40 秒収集したハイエントロピー合金の元素マップ
結果と考察
最初に加速電圧20 kVにて元素マップを収集しました。Si、Fe、Co、Ni、Cuのマップは許容可能な信号対雑音比(SNR)で取得できましたが、ホウ素の分布は可視化できませんでした(図2)。この測定条件では、X線は試料表面から数ミクロン以内で励起され、試料から発生し検出されるためには、他の元素からの吸収を避けて検出信号に寄与する必要があります。ホウ素などの低エネルギーX線の場合、吸収は非常に大きくなる可能性があります。

図 3. 異なる加速電圧におけるBの元素マップ
吸収の影響を最小限にするため、SEM の加速電圧を下げて、励起された X 線が試料を通過する距離が短くなるようにしました。20、10、5 kV の加速電圧で収集されたホウ素マップの比較を図 3 に示します。画素数と収集時間は各加速電圧で同じです。予想どおり、両方の検出器で加速電圧が低いほど SNR が大幅に向上しました。Octane Elite Ultra で収集したマップではホウ素に富む相の分布を可視化できました。これは、5 kV で Ultraによって収集されたホウ素マップの SNR が 8 倍向上したためです。ただし、収集時間を増やせば、Octane Elite Super で もB の明確な元素マップを収集できます (図 4)。

図 4. EDAX Octane Elite Superにて加速電圧 5 kVで収集したボロンの元素マップ、収集時間55分
最後に、SNRを最適化した元素マップを作成するための分析条件を特定しました。加速電圧は3kV、収集時間は28分でした。この加速電圧では、遷移金属元素の検出に標準的に用いられているX線(K線)を励起するのに不十分であったため使用できませんでした。そのため、代わりにL線が使用されました。100 nm 未満の特徴が観察されました。

図 5. Octane Elite Ultra Octane Elite Ultra で収集した 3 kV の元素マップ
まとめ
Octane Elite Ultra検出器のウィンドウレス設計は、低エネルギーX線透過の障壁を排除し、軽元素および遷移金属元素のL線からの低エネルギーX線の検出能力を大幅に向上させます。さらに、広いアクティブエリアは信号収集能力の向上にも寄与し、複雑な試料の分析に特に効果的です。従来の大面積ウィンドウタイプのEDS検出器と比較して、最大8倍のSNR向上が実証されています。これらの改善は、材料科学、冶金学、半導体研究における有望な応用を示唆しており、低加速電圧での分析を日常的に実行できるようになります。