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水素エネルギー社会の材料分析を支援するEDAXの製品展開

はじめに

The Journal of the Metals(JOM)で、Jones とThomasは水素エネルギー社会に関連する材料の問題の概要を説明しました[1]。 彼らは、水素エネルギー社会への移行に関連する経済的および社会的問題がある一方で、最終的に成功するには、水素の生産、流通、貯蔵などの主要な材料技術に依存する可能性があると指摘しています。EDAXは、これらの主要技術の実現を目指す研究をサポートするために研究者が必要とする特性評価装置を提供しています。このアプリケーションノートでは、実現可能な水素エネルギー社会に向けた技術の進歩を支援するためにEDAX製品が使用されている分野について説明します。

水素の供給

水素は、これまでスチール製の容器に貯蔵され、スチール製のパイプラインで輸送されるのが一般的でした。しかし、水素の商用流通に必要なガス圧では、鋼材は水素による亀裂や脆化の影響を受けやすくなります。このため、ガスや鋼材の組成を変えることで、水素の影響を低減する方法がとられてきました。しかし、鋼材の熱機械的処理を変えることでも、その性能を向上させることができます。結晶粒界工学(GBE)は、応力腐食割れに対する材料の耐性を効果的に向上させます[2]。Venegasらによる例[3,4]に示されるように、同じ考え方が水素の輸送と貯蔵を目的とした鋼材に採用される可能性があります。著者らはEBSDを用いて、粒界亀裂伝播は主に高角度の結晶粒界に従う一方で、粒内伝播は{001}面に沿った劈開と特定のすべり系でのすべりによって発生することを確認しました。さらに、EBSDパターンのイメージクオリティが水素誘起亀裂を取り巻く塑性変形場の空間分布を特徴づけるのに役立つことを発見しました。伝播する亀裂の結果として残された塑性域に関連する強いひずみ領域が観察されました。最大かつ最も強度の高い塑性域が、接近する亀裂の間に発生することが観察されました。Mani Krishnaはジルカロイ管における水素化物生成について研究しました。ジルカロイが水素輸送のパイプライン材料として使われることはないでしょうが、水素化物生成は水素エネルギー社会と関連する多くの材料でよく見られる問題です。この研究では、水素化物は特定の結晶学的性質を持つ結晶粒界に優先的に形成されることを発見しました。この論文では、特に統計的アプローチを使用する場合、EBSDが粒界特性を研究するための理想的なツールであることが示されました。

図1.(左) ハイライト化された二次電子像領域のEBSD イメージクオリティー像 (IQ) 、(右) 亀裂先端を取り巻く低IQ領域図で、局所的なひずみ場を示している[4]
図1.(左) ハイライト化された二次電子像領域のEBSD イメージクオリティー像 (IQ) 、(右) 亀裂先端を取り巻く低IQ領域図で、局所的なひずみ場を示している[4]

 

水素燃料電池

固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、分散型電源として開発され、さらに輸送用としても検討されています。SOFCは、正極と負極を分離する固体電解質で構成されています。電気化学セルのほか、配線材や封止材などの部品もあります。セルは多くの異なる材料の層で構成されているため、様々な層の相互作用とそれがセルの性能に与える影響に関する多くの課題が存在します。これらの課題のいくつかの例と、研究者がこれらの課題に対する解決策を見出すのに役立つEDAX製品のアプリケーションを紹介します。EBSDとEDSの組み合わせは、これらの課題の多くに特に有効です。異なる材料層間の界面に存在する様々な化学種から、様々な相を特定するのに役立ちます。

図2.ジルカロイ管のEBSDマップ。マップでは水素化物が暗く表示される-いくつかをハイライト。
図2.ジルカロイ管のEBSDマップ。マップでは水素化物が暗く表示される-いくつかをハイライト。

 

電解質

電解質は、良好なイオン伝導度と低い電子伝導度を持つことが望まれます。これらの特性を最適化するためには、電解質の組成と構造を適切に制御する必要があります。SOFCの電解質としては、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)が最も多く使用されています。YSZ電解質はアノードとカソードの両方に接触しているため、化学種の相互拡散を考慮する必要があります。NiOの微量添加は、高温でのYSZの立方晶相の安定化に役立つことが分かっています。しかし、これらの試料の経時変化により、立方晶相の一部が分解し、立方相と正方相が生成されます。SOFCでのNiOの使用にはマイグレーションが関連するため、DelaforceらはEBSD、EDS、X線回折(XRD)を組み合わせて、高密度予備焼成YSZ基板の微細構造と相の安定性に対するNiOの影響を調査しています[5]。

彼らは、NiOの効果が基板のイットリア含有量に依存することを見出しました。3 mol% のYSZでは、NiOはイットリアのみを添加したものに比べて、イットリア濃度の低い大きな立方晶の結晶粒形成を促進します。立方晶と正方晶の両方の粒成長が増加しました。より多くの正方晶粒子が臨界サイズ、例えば、冷却中に単斜晶相に変化するサイズを超えました。8 mol% YSZでは、NiOを添加しても相の構成は変化しませんが、プリントされたNiO層の下に大きな結晶粒が形成されました。さらに、ニッケルは3 mol% YSZでは約200 mmの距離まで厚さ方向に移動し、8 mol% YSZでは大きな結晶粒の深さに限定されることが分かりました。

図3.イットリウムのEBSD相マップとEDS元素マップの同時分析。相とイットリウム含有量の相関関係が示された [5]
図3.イットリウムのEBSD相マップとEDS元素マップの同時分析。相とイットリウム含有量の相関関係が示された [5]

 

陽極

SrTiO3は、酸化性および還元性雰囲気下での高温における化学的安定性から、SOFCのアノードの候補材料として注目されています。しかし、この材料の電気特性は、欠陥や界面の存在に敏感です。HorikiriらはEBSDを用いて、Nb-SrTiO3の結晶粒界に対する電気特性の感度を研究しました[6]。彼らは、多結晶体試料の結晶粒界分布を調べ、双結晶と単結晶に対する導電率の結果を比較しました[6]。その結果、伝導は粒子を介しておらず、結晶粒界を越えてもおらず、結晶粒界の3次元ネットワークを介していることが示唆されました。3D-EBSD[7]は、導電率に対する結晶粒界の影響を理解する上で、更なる役割を果たす可能性があります。

図4.SrTiO3のOIM方位マップと二次電子像の重ね合わせ像。特別な境界を黄色でハイライト表示
図4.SrTiO3のOIM方位マップと二次電子像の重ね合わせ像。特別な境界を黄色でハイライト表示

 

図5.EBSDで測定したニッケル合金の粒界ネットワークを、一連の2次元断面像を3次元合成した像。粒界は方位の違いにより、青(低角度)から赤(高角度)へと色分け
図5.EBSDで測定したニッケル合金の粒界ネットワークを、一連の2次元断面像を3次元合成した像。粒界は方位の違いにより、青(低角度)から赤(高角度)へと色分け

 

インターコネクト

SOFCの設計には、薄膜(20 μm以下)のYSZ電解質膜とアノード基板を使用することが提案されています。この組み合わせにより、電解質間の抵抗損失が減少し、動作温度を下げることができ、インターコネクトに低コストの金属を使用できる可能性があります。熱膨張率と酸化スケールの導電性から、フェライト系ステンレス鋼が候補の1つです。しかしこの材料は、カソードを汚染するCrを含む酸化スケールが形成されるため、性能面で問題があります。Crの揮発を抑えるための一つの方法として、ステンレス鋼をコーティングする方法があります。(Mn,Co)3O4スピネルは有望なコーティングの1つです。Simnerらによる研究は、特性評価装置としてEDSを使用しました[8]。この結果は、フェライト系ステンレス鋼の接合部を Mn1.5Co1.5O4でコーティングすることにより、800 ℃の長時間使用でもCr揮発が効果的に抑制されることを示しています[8]。

図6.ステンレス鋼インターコネクトからMn1.5Co1.5O4バリアコーティングへのCrマイグレーションが最小限であることを示す、テスト後のSOFCのCrのEDSラインスキャンデータ[8]
図6.ステンレス鋼インターコネクトからMn1.5Co1.5O4バリアコーティングへのCrマイグレーションが最小限であることを示す、テスト後のSOFCのCrのEDSラインスキャンデータ[8]

 

水素の製造

石油精製やアンモニア製造のための水素は、一般的にメタンの水蒸気改質法によって製造されています。この方法では、温室効果ガスの排出を抑えることができず、化石燃料を必要とするため、他の方法が検討されています。電気化学、太陽電池、光電気化学、熱化学などです。これらのプロセスのエネルギー源は、水素エネルギー社会が温室効果ガスの削減と化石燃料への依存の低減に成功するかどうかの鍵を握っています。これらのプロセスには、さまざまな材料に関する課題があります。これらのプロセスの多くに共通する課題として、高温下での耐食性材料のクリープがあります。この種の研究の一例として、Boehlertとその共同研究者が、優れた撓み強度と耐酸化性を持つコバルト合金であるUdimetについて行った研究があります[9]。彼らは、in-situ EBSD を用いて、撓みに対する結晶粒界の特性の影響を研究しました[9]。彼らは、表面クラックが高角度の結晶粒界で優先的に発生し、伝播することを発見しました。ここでも、結晶粒界工学の原理を応用することで、この材料の撓みを向上させることができる可能性があります。

図7.結晶粒界を重ね合わせた撓んだ試料のEBSDイメージクオリティー像。赤で示した粒界はランダムな高角度の粒界(> 10°)、青は一致するサイトの格子粒界、黒い線は、クラックの入った粒界を示す
図7.結晶粒界を重ね合わせた撓んだ試料のEBSDイメージクオリティー像。赤で示した粒界はランダムな高角度の粒界(> 10°)、青は一致するサイトの格子粒界、黒い線は、クラックの入った粒界を示す

 

まとめ

水素エネルギー社会への移行が成功するかどうかは、主要な材料技術の進歩にかかっています。EDSとEBSDは、研究者がこれらの主要な技術を実現するための研究をサポートする、重要な特性評価装置です。

参考文献

  1. R. Jones and G. Thomas (2007). “An Overview of Materials for the Hydrogen Economy” JOM 59: 50-55.
  2. G. Palumbo, E. M. Lehockey and P. Lin (1998). “Overview: Applications for Grain Boundary Engineered Materials” JOM 50: 40-3.
  3. V. Venegas, F. Caleyo, J. L. González, T. Baudin, J. M. Hallen and R. Penelle (2005). ““EBSD study of hydrogen-induced cracking in API-5 L-X46 pipeline steel”” Scripta Materialia 52: 147-152.
  4. V. Venegas (2007) “Estudio De Los Mecanismos De Propagación De Grietas Inducidas Por Hidrógeno En Aceros Grado Tubería”, Ph.D. Thesis, Instituto Politécnico Nacional, Mexico.
  5. P. M. Delaforce, J. A. Yeomans, N. C. Filkin, G. J. Wright, and R. C. Thomson (2007). “Effect of NiO on the Phase Stability and Microstructure of Yttria-Stabilized Zirconia” Journal of the American Ceramic Society 90: 918–924.
  6. F. Horikiri, L. Q. Han, A. Kaimai, T.i Otake, K. Yashiro, T. Kawada, and J. Mizusaki (2006). “The influence of grain boundary on the conductivity of donor doped SrTiO3” Solid State Ionics 177: 2555–2559.
  7. S. Zaefferer, S.I. Wright and D. Raabe (2008) “Three Dimensional Orientation Microscopy in a Focused Ion Beam – Scanning Electron Microscope: a New Dimension of Microstructure Characterisation” Metallurgical and Materials Transactions A 39: 374-389.
  8. S.P. Simner, M.D. Anderson, G-G Xia, Z. Yang and J.W. Stevenson (2005). “Long-Term SOFC Stability With Coated Ferritic Stainless Steel Interconnect” Ceramic Engineering and Science Proceedings 26: 83-90.
  9. C. J. Boehlert, S. C. Longanbach, M. Nowell, and S. I. Wright (2008) “The Evolution of Grain Boundary Cracking Evaluated Through In-Situ Tensile-Creep Testing of Udimet alloy 188” Journal of Materials Research 23: 500-506.