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Spherical indexingを用いた積層造形されたアルミニウム-シリコン合金のEBSD分析

はじめに

アルミニウム-シリコン合金は、高比強度で、耐食性に優れ、耐摩耗性が高いため、自動車や航空宇宙用途で一般的に使用されている。アルミニウム合金を積層造形で製造すると、従来の鋳造材料に比べて優れた機械的特性、熱亀裂の低減、複雑な形状品の製造を行うことが可能となる。これらの合金にシリコンを添加すると、これらの特性はさらに向上するが、脆性的な挙動を示す可能性がある。これらの合金の特性を最適化するために、合金の組成と使用される積層造形プロセスのパラメータによって変化する微細構造と特性を評価し、理解することが不可欠である。

考察

電子後方散乱回折(EBSD)は、積層造形された結晶材料を分析するために一般的に使用される強力なツールである。しかし、アルミニウム-シリコン合金は、従来のEBSDパターンの指数付け時に相分離が困難という問題が生じる。存在する主な相は、アルミニウム相とシリコン相である。アルミニウム相は面心立方晶構造(FCC)で、シリコン相はダイヤモンド構造である。FCCは図1a)に示すように原子は単位格子の角と面心に位置する。ダイヤモンド構造は、FCC構造をずらして元のFCCと重ねたような構造となるため、周期性はFCCと近いものとなる。アルミニウムとシリコンのユニットセルを図1に示す。

a)アルミニウムとb)シリコンの単位格子。両方の格子で角と面心の位置が占有されており、シリコン単位格子には追加の原子が存在する
図 1. a)アルミニウムとb)シリコンの単位格子。両方の格子で角と面心の位置が占有されており、シリコン単位格子には追加の原子が存在する

図2は運動学的回折モデルを用いたアルミニウムとシリコンのEBSDパターンのシミュレーションを示している。二つの結晶構造は似た周期性となっているため、図2に示すようにEBSDパターンも回折面が共通していることがわかる。これらのシミュレーションは、強度の高い回折面を反映したバンドのみを示しており、従来のHough変換によりバンドを検出し、3バンド法での指数付けの際に使用される回折面である。両相ともFCC構造の周期性を持っているため、多くの回折面が共通している。Hough変換で共通な回折面のみが検出されてしまうと、アルミニウム相とシリコン相の両方が同定度合ってしまうため、相分離することが難しくなる。

a)アルミニウムとb)シリコンの運動学的回折シミュレーション。どちらのシミュレーションパターンも、これらの結晶構造における高強度回折面の共通のバンド位置を示している。
図 2. a)アルミニウムとb)シリコンの運動学的回折シミュレーション。どちらのシミュレーションパターンも、これらの結晶構造における高強度回折面の共通のバンド位置を示している。

積層造形されたアルミニウム-シリコン合金の従来のHoughベースの指数付け法を用いた相マップ。両相がまだらに相判定されていることから、この相分離が難しいことが分かる。
図 3. 積層造形されたアルミニウム-シリコン合金の従来のHoughベースの指数付け法を用いた相マップ。両相がまだらに相判定されていることから、この相分離が難しいことが分かる。

最近Spherical indexingという新しいEBSDパターンの指数付け法が開発された。Spherical Indexingは、EDAX OIM Analysis™ソフトウェアのオプションモジュールであるEDAX OIM Matrix™で利用可能である。Spherical Indexingでは、実験的に収集された各EBSDパターンが、各候補相(この場合はアルミニウムとシリコン)のマスターパターンと比較され、決定された相と方位に最もよく一致するものが選択される。このアプローチでは、実験的に得られるEBSDパターンを角度空間に変換したもとをそのまま比較するため、アルミニウムとシリコンの結晶構造の違いによるEBSDパターンの違いを利用して相判定を行うことが可能となる。図4は、アルミニウム相とシリコン相の実際のEBSDパターンと、アルミニウム相とシリコン相のシミュレーションパターンを示している。これらのシミュレーションパターンは動的回折モデルを使用しているため、実際のEBSDパターンに近いものが得られる。同じ方位のアルミニウムとシリコンのシミュレーションを比較すると、シリコンにのみ存在するバンドは強度が弱いため、従来の指数付けのHough変換では安定して検出することが困難であることがわかる。

アルミニウム相とシリコン相の実験的EBSDパターンと、両相の対応する方位に対する動力学的回折シミュレーションパターン。選択された相は赤でハイライトされている。
図 4. アルミニウム相とシリコン相の実験的EBSDパターンと、両相の対応する方位に対する動力学的回折シミュレーションパターン。選択された相は赤でハイライトされている。

積層造形されたアルミニウム-シリコン合金のSpherical Indexingを用いたEBSD相マップ。この方法で相が明確に区別される。
図 5. 積層造形されたアルミニウム-シリコン合金のSpherical Indexingを用いたEBSD相マップ。この方法で相が明確に区別される。

EBSDパターン画像そのものを指数付けに利用するSpherical indexingアプローチを使用すると、図5に示すように、これらの微妙な違いに対する識別力が大幅に向上し、アルミニウムとシリコンの相分離が可能となった。

単一FCCユニットセルモデルを用いれば、両相の方位は正しく決定することができる。しかし、研究者が微細組織をより深く理解したいのであれば、アルミニウム相とシリコン相を分離し、より詳細に各相の特徴を調べることが有効である。この例を図6に示す。ここでは、アルミニウム相とシリコン相の両方について相対方位差分布が示されており、さらにそれらを合わせた分布(全データと呼ぶ)も示されている。この分布は、主にシリコン相に見られる60°の方位差に顕著なピークがあることを示している。これは、焼鈍双晶に相当する方位差であり、このような粒界の解析も可能となる。このように相分離することにより両相の粒径、相分率、方位分布、粒界特性は、Spherical indexingによる相分離の結果を用いることで評価することができる。この情報は、積層造形パラメータを改良し、最終的な材料特性を最適化するための有用な情報となる。

アルミニウム相とシリコン相、および両相を合わせた(全データと呼ぶ)の方位差分布。
図 6. アルミニウム相とシリコン相、および両相を合わせた(全データと呼ぶ)の方位差分布。

まとめ

Spherical indexingは、従来のHough変換による指数付けと比較して、指数付けと相分離の性能を向上させる。これにより、結晶方位、粒界特性、粒径を含む相分布と微細構造情報の正確な特性評価が可能になる。この特性評価は、積層造形の加工パラメータと最終的な材料特性を最適化するために重要である。